#004 タンゴレッスン雑学4 時の試練を待つ?

※ダンスビュー2016年12月号に掲載された記事「タンゴレッスン雑学」を更に詳しく書き直して紹介します。第4弾はAndrew Sinkinson, Len Scrivenerのお話を基軸に広げて見ます

#004 タンゴレッスン雑学4
時の試練を待つ?

 

今回は、オリジナルの原稿に付け加えながら紹介します。

 

 

Original 1

Andrew Sinkinson

「1934~5年代、新しいタンゴのスタイルが入ってきましたが、その踊り方や技術は間違ったまま広まってしまい、現在のダンス界は、その新しいタンゴのスタイルから得た成果を充分活かすことができていません。多くのダンス教師はこの新しいスタイルを完全に理解できておらず、間違った理論にしがみついています……ということがヘンリー・ジェイクス(Henry Jacques)の本に書かれています。彼は3年連続全英プロチャンピオンの経歴を持ち、ISTDのフェロー試験官であり、終身会員でもありました」。

アンドリューさんは2010年、UKコングレスでのレクチャー「失われたタンゴ」を、上のように切り出しました。彼の言うヘンリー・ジェイクスの本とは1930年代後半に出版された本(Modern Ballroom Dancing /Henry Jacques)を指しています。

 

実は、この2010年コングレスの全容は、当時関わっていたダンスウイングという隔月誌の付録DVDに付けることになり、映像入手から、英国人の助けを得ながら英語の書き下ろし、和文作成、そして、アフレコなど総てに関わりました。

おまけに、グリーブさんと仕事をしていた時(「#001 タンゴレッスン雑学1」参照)、グリーブさんから、「そんなに勉強しているなら、ヘンリー・ジェイクスのModern Ballroom Dancingを是非入手しなさい」と言われ、探しまくって手に入れていたので、アンドリューさんの話について行くことが出来たのでした。

ヘンリー・ジェイクスのモダン・ボールルーム・ダンシング

 

 

Original 2

 

タンゴは1920年代にヨーロッパに広まりました。オリバー・ヴェッセル・テルホーンさんは彼の最初の本(“The Irvine Legacy” Oliver Wessel-Therhorn)の中でこう書いています。

ドイツの踏風は他国の踊り方と大きく違い、かなり激しいアクセントのついた動きをしていました。それを見たジョセフィン・ブラッドリー(Josephine Bradley)さんが、その感動をご主人(G. Kenneth Anderson)に伝えると、「イギリス人なら、あんな風にでたらめに踊れない!」と切り返されたそうです」。

バッサリ切り捨てたご主人。しかし、1935年頃の全英アマチュア選手権で、ドイツのカップル(Freddie Camp & A. Pasqual)がスタッカートの効いた踊りをすると、ヘンリー・ジェイクスは、すかさず、その踊り方を研究したそうです。そして、それまでのタンゴの踊り方は塗り替えられました。

(The Story of British Popular Dance / Lyndon Wainwrightより)

 

 

オリバーさんの“The Irvine Legacy”は、「ビル&ボビー・アービンのダンステクニック」として、白夜書房から翻訳本が出ています。書籍のあとがき的な「翻訳にあたって」で、その出版に至る経緯を書きましたので紹介します。

 

  ――引用 「ビル&ボビー・アービンのダンステクニック」P214-215――

原書「アービン・レガシー」に出会ったとき、できるだけ多くの日本のダンサーに読んでいただきたいと思い、出版元である英国のDSI社から版権を入手することにしました。その話し合いを東京で行い合意に至ったのが2010年11月12日。奇しくもその日は、時差を挟んだヨーロッパでオリバー氏が他界された日となりました。

不思議な縁を感じながらスタートしたダンスファン誌での半年にわたる連載でしたが、毎回寄せられる読者からの確かな反

応に支えられ、懸命に翻訳をしました。そしてここに、完訳本となったのはこの上ない喜びです。

この本の翻訳をお引き受けした時、この素晴らしい内容をダンス教師だけではなく、できる限り幅広いレベルの多くのダンス愛好家にも読んでいただきたいと思い、一部文中に「訳者のノート」を、また、巻末には補足説明を入れることにしました。それが筆者オリバー氏の意に反していないことを心より願っています。

翻訳にあたり、第1章、3章、4章の解剖学に関する所では、そうした学問の門外漢である私たちは、購入した体の構造に関する何冊かの本と複数の辞書と格闘しながらの翻訳を強いられましたが、幸いにして、長野県の馬場清充氏(軽井沢町で馬場診療所経営)が救いの手を差し延べてくださり、私たちの翻訳をより的確な表現にしてくださいました。

ダンスに関わる文章で疑問を抱いた所は、英国の原書出版元DSI社に勤務しダンスもされているホーリーさん(Ms. Holly Woodcott)に意見を求めました。また、英語の一般的な個所で不安を感じたときは、ためらうことなく友人のジェフさん(Mr. Geoff Gillespie)に教えを乞いました。この方々のご協力をなくして自信を持ってこの本をお届けすることはできませんでした。この場をお借りして心よりお礼申し上げます。

最後に、ダンスファンへ誌の連載を提案してくださり、書籍でも、様々な方面で的確なアドバイスをしてくださった山内一弘副編集長に深く感謝申し上げます。

平成23年10月    神元誠・久子

  ――引用おわり――

 

 

Original 3

Len Scrivener

オリバーさんは著書の中で

「ダンスの歴史における先駆者たちは常にタンゴに新しい様式をもたらし、発展に寄与してきました。そうした人たちの中で、最初に挙げるべき人物は、当然、レン・スクリブナーでしょう。なぜなら、1950年代以後の形は、基本的に、彼が創り上げたものだからです」

とも書いていますが、そのスクリブナーさんは、1983年に出版した”JUST ONE IDEA”で、

「タンゴの雰囲気とは動物的な動きであって、スタッカート・アクションがあっても機械的な動きになってはいけない。したがって、ゆったりした動きと力強さの両方が必要なのだが、今日の踊りの中から、そーっと動く動きが見られなくなった。本当にトップの数カップルだけが真のタンゴの雰囲気を捉えているに過ぎない」と述べています。

Just One Idea

こう振り返ると、いつの時代にも批判や懸念はあったのでしょう。そして、時の試練に耐えたものだけが私たちに受け継がれてきたのです。ですから、現在の新しいトレンドも、時の判断に委ねるのがフェアなのかもしれません。

 

ハッピー・ダンシング!