#276 アービンが遺したもの

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アービンが遺したもの
アービン・レガシー

オリバー・ヴェッセル・テルホーン氏の処女作 “The Irvine Legacy” は2011年10月、邦題「ビル&ボビー・アービンのダンス・テクニック」として白夜書房から出版されました。

それに先立ち、ダンスファンでは2011年4月号~9月号の6回に亘り、その一部内容を「アービンが遺したもの」のタイトルで、妻が翻訳を担当して掲載させていただきました。この「私のダンスノート Part 2」では、その6回の記事をひとつに纏めてお届けします。あなたのダンスに役立つことを願っています。(一部変更あり。寿美は俗名)

ダンス・テクニック

 

 

 

出会いから出版まで

2010年1月。UK選手権会場でスタジオひまわり発行の隔月誌「ダンスウイング」の読者を増やそうと、スタンドを構えました。目の前にはDSIの大きなショップがありました。そこで見つけたオリバーさんの著書「The Irvine Legacy by Oliver Wessel-Therhorn」を購入し、人が来ないときに読んでいました。

ダンスウイングのスタンドは小さいですが、いろいろな人が顔を出して下さいます。そしてこのように、みなさん気持ちよく写真におさまってくれるのです。右の恰幅の良い人はDSIの社長、ジェラルドさんで左はオリバーさん。

私はオリバーさんのことを、DVDのレクチャーなどを通じて一方的に親しくなってはいましたが、実際にお話したのはこれが初めて。とても光栄でした! なのに The Irvine Legacy にサインを頂いていません。どうしてだったか全然思い出せません…。

オリバーとジェラルドさん

 

 

翻訳にあたって(書籍より)

原書「アービン・レガシー」に出会ったとき、できるだけ多くの日本のダンサーに読んでいただきたいと思い、出版元である英国のDSI社から版権を入手することにしました。その話し合いを東京で行い合意に至ったのが2010年11月12日。奇しくもその日は、時差を挟んだヨーロッパでオリバー氏が他界された日となりました。不思議な縁を感じながらスタートしたダンスファン誌での半年にわたる連載でしたが、毎回寄せられる読者からの確かな反応に支えられ、懸命に翻訳をしました。そしてここに、完訳本となったのはこの上ない喜びです。

この本の翻訳をお引き受けした時、この素晴らしい内容をダンス教師だけではなく、できる限り幅広いレベルの多くのダンス愛好家にも読んでいただきたいと思い、一部文中に「訳者のノート」を、また、巻末には補足説明を入れることにしました。それが筆者オリバー氏の意に反していないことを心より願っています。

翻訳にあたり、第1章、3章、4章の解剖学に関する所では、そうした学問の門外漢である私たちは、購入した体の構造に関する何冊かの本と複数の辞書と格闘しながらの翻訳を強いられましたが、幸いにして、長野県の馬場清充氏(軽井沢町で馬場診療所経営)が救いの手を差し延べてくださり、私たちの翻訳をより的確な表現にしてくださいました。

ダンスに関わる文章で疑問を抱いた所は、英国の原書出版元DSI社に勤務しダンスもされているホーリーさん(Ms. Holly Woodcott)に意見を求めました。また、英語の一般的な個所で不安を感じたときは、ためらうことなく友人のジェフさん(Mr. Geoff Gillespie)に教えを乞いました。この方々のご協力をなくして自信を持ってこの本をお届けすることはできませんでした。この場をお借りして心よりお礼申し上げます。

最後に、ダンスファンへ誌の連載を提案してくださり、書籍でも、様々な方面で的確なアドバイスをしてくださった山内一弘副編集長に深く感謝申し上げます。

平成23年10月    神元誠・久子

 

 

 

 

1回目「まえがき」から 

「オリバーが亡くなった…」。夫が悲しい顔で私にそう言いました。昨年11月12日夜のことです。訃報を知った英国のウェブ・ニュースには更にこうありました ―

「ダッチ・オープン(11月11日)でドニー・バーンズは胸が熱くなる計らいをした。オリバーが好きだったクイックの曲  “If my friends could see me now” が流れたのだ。誰もいないフロア…。オリバーの魂が踊っているようで、観衆は総立ちとなり手を叩き、涙した。」 ― と。

「アービンレガシー(The Irvine Legacy)」はオリバーが生前に綴ったダンスの解説書で、その内容はマーカス・ヒルトンMBEやウィリアム・ピノに賞賛されています。そのような本の翻訳の機会をサークルで活動する私(神元)が頂けるのはこの上なく光栄ですので、オリバーが書き留めた一語一一語を大切に翻訳していこうと思います。本誌では6回に分けて重要なポイントを抜粋してお届けします。

ダンスファンさんに頂いた6回の連載の中で、できる限りの翻訳をお届けしたい考えです。まずは、目次から本の全容を把握して頂き、「まえがき」から第1章に入りましょう。
(翻訳=神元寿美 Translation Hisami Kammoto)

 

* * * * * *

 

  ■目次

  • まえがき
  • 第1章 まっすぐ立ちましょう/ボディの動き方
  • 第2章 ホールドしましょう
  • 第3章 君の足は大丈夫/足の動き方
  • 第4章 継続的な上下運動/ボディの動き方
  • 第5章 回って、回って
  • 第6章 スウェイしよう!
  • 第7章 プロムナードとフォーラウェイ
  • 第8章 ダンスに役立つヒント(ワルツ、フォックストロット、V・ワルツ、クイックステップ)
  • 第9章 メイド・イン・アルゼンチン
  • 第10章 リードとコミュニケーション
  • 第11章 ボビーの金言:女性の役割
  • 第12章 ダンスの歴史を少々(ワルツ、フォックストロット、クイックステップ、タンゴ)
  • 第13章 ビル&ボビー・アービン伝記を少しだけ
  • 第14章   著者について

 

 

まえがき

さて、私が本書で取り組んでいる事は、歴代の中でも最も魅力的なボールルーム・チャンピオンだった、ビル&ボビー・アービンMBEのレッスンにおける彼らの哲学と教え方を文字として残すことです。それがとてつもなく大変な仕事だという事も、その責任の大きさにも気づいていますが、同時に、レッスンに使われた二人のアイデアなどを総て書き出すことができるなら、どんなに素晴らしいことだろうとも思っています。

ともあれ、この本は桁違いに偉大な二人の人間との私の個人的な経験を書いたものです。私の長いダンス人生の中でお二人は私の唯一の先生でした。おかげで、いろんな先生からの情報で頭が混乱するという目に逢わなかったことを考えると、私は幸運に恵まれていたと思います。

この本を書くにあたり、私は自分の記憶をリフレッシュするために、DVDに残された彼らのレクチャーを見たり、世界中で行なった膨大な数のレクチャーからのメモなどで勉強したりしましたが、だからと言って、私の記憶が完全だとか、書き出した情報が完璧だとか言うつもりはありません。親愛なる読者の皆さん、ですから、もし大きな間違いを見つけられたり、ビル&ボビーの全体像に追記が必要と思われたりした時には、どうぞお気軽にご連絡ください。もし改訂版が出るような時があれば、喜んで変更・追加をさせて頂きますので・・・・・・。

 

R・グルインガー(Rafael Gruninger)氏の表現を引用するのが適切と思うのですが、この本は新しい解剖学の百科事典などではありません! 氏は、「ここに書かれた事は、ビルが教える時に使ったちょっとした生物力学的な説明に過ぎません。彼は解剖学を学んでいたために、それをレッスンに使うことができたのでしょう」とコメントしています。

確かに、生物力学的な説明は彼の教授法の一部でした ―― ある動きをどのようにするかを生徒に話し、なぜそれが解剖学的に正しい唯一の方法なのかを分かりやすく説明していました。ところで、ドクターを目指している人がいましたら、ここに書かれているのは素人向けの説明ですからね。

ビルの哲学を理解するために知っておかなければならない事があります  ―― 人体が機能する理論に基づいて、可能な限り効率的に踊ること ―― これがビルにとって重要な事だったのです。もちろん、そうすることで筋肉を最大限に緩めて体を使うことができ、結果、可能な限り完璧な踊りができるようになるのですから、懸命に努力するに値することです。ダンスの総ては次の説明に含まれます。

 

3つコントロール要因があります。

それは、バランス・コントロール、筋肉のコントロール、

そしてタイミングのコントロールです。

その中の一つでもコントロールできなかったなら、

総てがダメになってしまいます。

 

よって、これからの章の中では、そうしたコントロールを可能にする方法についてお話していくことにしましょう。文中、網がかかっている所は、ビル&ボビーの実際の話を表しています。

 

 

第1章 まっすぐ立ちましょう(前半)

ダンスに関する限り、どんな事をするにおいても、私達は自分の体を可能な限り完璧な形にしておかなければなりません。それは、正確にはどういう事を意味しているのでしょう?完璧な形とは、最小限の筋肉を使いつつ安定していられる垂直な形の事です。では、安定はどうやって得られるのでしょう?正しいポスチャーの基本の形は骨格から得られます。背骨を少し伸ばすことで、背骨を支える筋肉の働きを向上させ、かつ、最小の動きにすることができます。背骨をできるだけ垂直にすることで、筋肉に余計な仕事をさせないで済みます。すると、訓練を受けている筋肉組織が自動的に体を支えようとする機能を引き継いでくれます。勿論、その時すでに使われている筋肉は使うことはできませんが。

 

良いダンスをしようと思ったなら、最低限の努力でポスチャーを作り、いつでも自分がしたい動きのために、必要な筋肉を自由に使えるようにしておくことが絶対条件となります。そうしておけば、多少バランスを崩しても自動的にバランスを取り直せるからです ― 体が、バランスを保つための(正確には、倒れないように!です)助けを求めると、脳は他の筋肉に助けるよう指示するからです。しかし、そうした事態が起こると、私達の動きは非常に制限されてしまいます。助けに出動させられる筋肉は、本来、回転やスウェイや方向転換、それから、ボディ・ライズする時に必要な体の中からの動きに使いたいのですから。

 

 

途中ですが、ここから先に骨格に関する少し専門的な用語が出てきます。文中、傍線を引いたところの理解の助けに、ざっくりとしたイラストを描いてみました。

 

 

🔶正しいポスチャーの作り方

それでは、この正しい形の感覚を得るために、ビル&ボビーが行なっていた練習法やイメージの使い方を紹介しましょう。皆さんのお役に立つことでしょう。

正しいポスチャーの基本では、骨盤と脊椎が足の上にきます。この形をしたとき、お尻の筋肉がリラックスして、お尻のウェイトが足のボールの上にきます。この形にいると、骨盤から仙骨が解放されて下にさがり、脊椎が伸びます。膝はリラックスしたまま、関節は解放されます。これを違う形で表現すれば、ボディの下に両脚部が“長く”ぶらさがる感じで(膝は伸びきりませんが!)、上半身を支えつつ、胴体の下に垂直に保たれるのです。

 

基本的に、重心はいつもサポート・ベースの上に、です!

 

この骨盤のポジションを保つためには特定の一連の筋肉が必要とされています。その一連の筋肉は足の親指から始まって、足の裏を通り、ふくらはぎを抜け、膝裏を登り、お尻の丁度下で終わります。このひとつながりの筋肉は、足の親指が床をプレスすると活性化されます。ですから、私達がポスチャーを作る際、基本的な垂直な形が足の親指の上にきた時は、既に、ダンサー自身の体重を通して、この一連の筋肉が活性化されていることになります。

 

🔶骨盤・胸椎・頸椎

骨盤の位置を正しくする方法として、ビルは写真(図1)が示すように両手でしっかり下腹部を挟み、矢印の方向へ持っていきました。

背骨をまっすぐにする際、最も重要なのは胸椎の上半分です。この練習をやってみましょう ―― 深く息を吸い込んで、ブラのベルトの高さ位(見当はつきますよね)、即ち、少し前の少し上の方に胸椎を上げると、すかさず、肩の筋肉がリラックスするのが感じられるでしょう。続いて、胸椎の下半分のためには、これを試してください ― 胃の下の部分の感覚を上にあげて行き背中と結び付けます。その感覚の上に、まっすぐにした胸椎の上の部分を乗せ、更にその上に頚椎(7つの骨で構成)を乗せます。

 

骨盤と腰椎の関係同様に、胸椎と骨盤の関係は次のようにイメージすればよいでしょう。輪ゴムの一端を胸骨の高さ付近にあるシャツのボタンに留め、もう一端をベルトのバックルに留めると、ダンサーは胸骨と骨盤の間の距離の変化を感じることができるでしょう。実際に、縮んでは困りますけどね!胸椎をまっすぐにすると、頸椎もまっすぐになり、首の筋肉の緊張を解くことができます。

 

多くの女性は強い回転の最中に首のポジションがずれる経験をするでしょうが、それは首の筋肉が回転の勢いに耐えられないからです。首の筋肉は完全に自由にし、ちょうどアザラシの鼻の上のビーチボールのように、頭を背骨の上に乗せておけば良いのです。この時、頭のポジションが正しければ、自分のトウの上少し前方に頬骨があるのが感じられることでしょう。

 

 

🔶ヘッドの正しい位置

頭の位置を正しくする驚くほど効果のある方法をビルは使っていました。それは、ダンサーの背後に回り、頭蓋骨の後ろの下の所に親指を置き、中指を頬骨の下に当てます(図2、3)。このように押さえながら、ダンサーの首から、首の安定に必要なだけの緊張があり、必要以上の緊張が感じられなくなるところまで調整すると、頭は最適のポジションになります。もう一つ、ビルに教わった方法を紹介しましょう。それは、頭の上約3cmのところに帽子を持っていると想像し、その想像した帽子の中に頭を入れる方法です。この時、脚部を動かしてはいけません。

 

頭のポジションに関して、さらに理解しておいて欲しい重要なことがあります。それは、目の見る方向と角度は頭の位置に影響を与えるという事です。

 

私の2つの目だけが物を見ているのではありません。

私は第3の目が額の中央にあると想像します。

その第3の目はいつも前を向いていて、私のバランスを助けてくれます。

 

背骨を全体的に真直ぐにする方法として、ビルは次のようは方法を教えていました。(図4

  1. 最初に、上半身をフロアと平行になるまで倒します。そう、ちょうどテーブルのように。
  2. その形から頭部と頚椎が下に垂れていきます。
  3. 下から起き上がる時は、脊椎の一番下からゆっくりと持ち上げて行くと、最後に真直ぐになります。

 

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今回は第1章の半分近くまでをご紹介しました。次回は女性のポジションに触れながら、後半の骨格の話しに入って行きたいと思います。どうぞお楽しみに。(つづく)

 

 

 

 

2回目 第1章 まっすぐ立ちましょう(後半) 

前回カバーできなかった、第1章「まっすぐ立ちましょう」の残りからスタートしましょう。この第1章には実は、更に骨格の観点からの説明が8ページ続きます。しかし、そこは別の機会に委ね、多くの読者が知りたがっている「著者はどんな人?」の答えを探しに、第14章に飛びたいと思います。

※訳中、鎖骨と上肢帯(下線部)という言葉が出てきます。鎖骨は体の前に、ほぼ真横に付いているイメージがあるかも知れませんが、胸の上部から耳の真横の方に、意外と深い角度で入り込んでいます。それを理解して写真をご覧になると良いと思います。上肢帯には鎖骨と肩甲骨が含まれます。(翻訳=神元寿美 Translation Hisami Kammoto)

 

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  第1章 まっすぐ立ちましょう(後半)

 

🔶最適なボディ・ポジション

最適なボディ・ポジションを二つの角度から見てみましょう。両足を閉じてみると、両足の占有面積が非常に小さいことが見て取れます。右足親指から垂線を引くと、その線は股間を通り、吊りバンドのように右鎖骨までまっすぐ通り抜けて行きます。そこから片足に体重を乗せると、親指の線上に鎖骨の内側(体の中央寄り)が来ます。更に、その延長線上には頭がきます。頭の重さはいつでも軸足の上にあるようにします。

横から見ると、骨盤の位置が足の前の方にあり、両足→骨盤→胴体→両肩→頭の順にボディ・パーツが垂直の線をなしているのが良く見えることでしょう。床に対する自分のボディ・ウェイトの関わり方は、動きのコントロールに不可欠です。とはいえ、それぞれのボディ・パーツには異なった役割があります。

男性の立ち方

 

1⃣お尻はリラックスし、お尻の重さは立っている足の上にゆったりとぶらさがっています。脚部の筋肉は正しい位置にあればリラックスしています。体重を運ぶための筋肉が自然に使われるだけです。

✔下に向けて意識しなさい!

 

2⃣背骨は真直ぐです。通常この姿勢は、はっきりと上に向かって作られますが、ビルはこんな風に説明していました。

 

背骨を伸ばすとき、頭部から下に離れて行くようにやってみなさい。
そうすると、体重がフロアから浮いてしまうリスクを防げます!

 

このようにストレッチすると、自然に体が前後左右の4方向にもストレッチします。

✔下に伸びれば上にも伸びます!

 

3⃣真直ぐ起した胴体の上に上肢帯全体がくるようにします。いかなる時も両肩を下に押し下げる事はしません。そのような行為は理想の筋肉の使い方に反します。

✔ただ、ぶら下げておきなさい!

 

女性の立ち方

4⃣頭は、あたかも王冠をかぶっているかのように、自信とプライドを持って使います。ビルが良くいっていたのは、

 

プールで泳いでいると思いなさい。

頭は水の上、体は水の中

 

✔顔を起しなさい!

これで、二つの力が重力にしたがって働き、別の二つの力が重力に反して働いている事になります。

 

 

  【女性の立ち方】

女性の基本的な形は、僅かに左に曲線を描きます。では、どのようにしてバランスを崩すことなくこの曲線を作ることが出来るのでしょう?

女性の形は基本的には男性と同じです。そこから女性は、すこしだけ左膝をリラックスさせ、右足を僅かに開きます。さらに、左のお尻が左足ボールの上にくるようにし、その延長線上に頭が来るようにすると、女性の形は自然と出来上がり、後頭部と左足のヒールとのつながりが感じられるようになるでしょう。女性の身体能力によっては、この形をさらに大きくしていくことも可能です。

 

辛抱強く姿勢の原則を練習しなさい。そうすれば完璧な体が約束されます

 

 

 

第14章 著者について 

最後になってしまいましたが自己紹介させていただきます。そして、この本を書くことになった経緯もお話しましょう。

私は11才でダンスを始めました。当時は子供の中に混じって踊るだけで、将来の大きな目標などは持っていませんでしたが、ある日、その子供のクラスに事件が起きました―郷里に来ていた世界プロフェッショナル・チャンピオンのウォルフガング&イーブリン・オーピッツ組の特別レッスンを受けたのです。感動した私は、直ちに、将来の仕事は世界チャンピオンと決めたのです。それからの私のダンスは、ドイツのユース選手権で優勝するなど、悪くはありませんでした。

オリバー

その頃、私が通うクラブが、有名なビル・アービンMBEをお招きしてのワークショップとレッスンを企画し、私はクラブからのご褒美としてビルのレッスンを1回だけ受ける機会を頂きました。彼のことは写真やテレビから知ってはいましたが、直接お会いするのは初めてでした。お会いした時、彼はとても丁寧に、でも、フレンドリーに「こんにちは。私の名前はビル・アービンです」と挨拶して下さいました。でも、テレビで見るビル・アービンは間違いなく180㎝以上あると思っていたので、本当に本人なのか疑ってしまいましたが、彼が私のパートナーとホールドした瞬間、本物だと納得しました。そして私は再び決心したのです―世界チャンピオンの夢を叶えるには、この人から教わるしかない―と。私の設計がひとつながりになった瞬間でした。

半年後、再び私の故郷にやってきた彼はボビーを連れ添っていました。溢れる尊敬の思いで、身動きできないでいる私を見て、「それで・・・」とボビーが話しかけてきました―「あなたが、主人がいつも話している若者ね。でも、彼の話を信じていない事も覚えておいてね。自分で見ない限りはね。」

 

このレッスンを機に、ボビーとの真の関係がスタートしました。

大志を胸に抱いた私でしたが、お金がなく、始めの頃は定期的にレッスンを受ける余裕がありませんでした。お金が貯まればとロンドンへ数日間でかけるという風でしたから、他の先生にも習うなどという考えは微塵も起きませんでした。第一に、お金がなかったこと、第二に、他の先生に行く前に、先生としてのビルとボビーの考えを知り尽くしたいと思っていたからです。結果として、私の生涯の教師はお二人だけでした! もう少し正確に言えば、ドイツに来られた他の先生のレッスンを受けたことはありました。が、それとても、いつもアービン夫妻と相談してのことでした。

 

ビル&ボビーのお陰で(そして、ドイツでの先生、ウォルフガング&イーブリンとカール・ブロイエル氏らの助けによって)、私は自分の目標を手にすることが出来ました。ワールドとヨーロッパ・アマチュア・ボールルーム選手権に2度優勝する誉れを得ることが出来ましたし、ワールド・アマチュア・テン・ダンス・選手権でも優勝することができました。そうした中でも、一番思い出深いのは、ブラックプールでのブリティッシュ・オープンの優勝でした。

 

ブリティッシュ・オープンで優勝した夜

1988年、私の父は余りにも若くして他界しました。それからと言うものは、ビルが私の父のような存在でした。まったく何から何まで、あらゆることをビル&ボビーに相談してきました。仕事のことも私的なことも何もかもですから、お二人をなくして今の私はありえません。プライベートでもお二人との貴重な時間を過ごすことができたこともを幸運に思っています。

 

かつて、ビル&ボビーが有名人との出会いを話してくれたことがあります。皆、私にとっての銀幕のヒーロー達ばかりでした。例えばビルは、飛行機の中でフレッド・アステアと隣同士だったとか、クルージングの船上で日光浴をしていた時の隣はスペンサー・トレーシーとキャサリン・ヘップバーンだったとか、カール・アラン賞の時にはモナコのグレース王妃と踊ったとか、ビートルズとおしゃべりしたとか。ボビーはマイアミのフォンテーヌブロー・ヒルトン・ホテルでフランク・シナトラと一緒にお酒を飲んだとか、まったく羨ましい話ばかり!

ある時、ジェームズ・ボンドは誰が一番適役かという話になり、私がお気に入りのサー・ショーン・コネリーだと言うと、ビルは完全同意をしてくれました。「当然さ、オリー。彼はスコットランドの男だしね」と、付け加えるのも忘れずに。

 

ビルは二人の自叙伝「ザ・ダンシング・イヤーズ」の中で、どのようにテクニックを用いてきたかを本にしたいと語っています。そこで、2007年12月21日、私がクリスマスの訪問をした折に、原稿の進み具合を尋ねてみたところ、当時、体調があまり良くなかったビルは、「もう書けそうもない」と言いました。そして次の瞬間私を指差し、「君がやってくれ!」と命令してきたのです。そのような物を実際に書けるものかどうか分からないし、また、私がすべき事かどうかも分からないと返事をすると、再度「やりなさい!」と強い声が飛んできたのです。

大の親友のマーカス&カレン・ヒルトンMBEは私が書くよう勇気づけてくれいましたが、それでもなかなか決心がつかないでいたある日、私は家族と休暇でアメリカに向かう飛行機の中にいました。あいにく飛行機の中の映画がまるで面白くなく、私はラップトップを取り出し、この本を書き始めたのです。その時、「これが最後の」との考えがよぎりましたーー私が「養父母」にしてあげられる事だと・・・

 

親愛なるビル&ボビーへ

今、どこにおられるのでしょう。

私は天国だと固く信じています。私達ダンサーの天使となって・・・

お二人には心の底から感謝しています。

今の私に導いてくださって、有難うございます。

いつまでも愛しています。

オリーより

 

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今回の内容はいかがでしたか? 「著者について」では、私はオリバーの人生を垣間見ることで豊かなダンス人生の送り方を学んだ気がしました。次号では、「第2章ホールドしましょう」を中心に見て行きましょう。(つづく)

 

【訳者のノート】(出典:2,3は “BALLROOM ICONS”。他はWikipediaより)

  1. オリバーは1960年生まれですから、28才位のときにお父さんを亡くしたことになります。そして、オリバーは5才と7才の女の子二人を残して旅立ちました。
  2. ウォルフガング・オーピッツ(Wolfgang Opitz): 1937年ドイツ生まれ。1958年遅くしてダンスを始めるも翌年にはプロ・ジャーマン大会でファイナル入り。1962年、イーブリン(Evelyn)さんと踊り始め、翌年ジャーマン・ラテン選手権で優勝。
  3. カール・ブロイエル(Karl Breuer):1932年ドイツ生まれ。1960-61年にアマチュア世界ラテン選手権で優勝。1999-2005年WDC会長を務める。
  4. フレッド・アステア(Fred Astaire):1899年アメリカ生まれ。1930-50年代のハリウッド・ミュージカル時代を担う大俳優。
  5. スペンサー・トレーシー(Spencer Tracy):1900年アメリカ生まれ。舞台、映画俳優。40ー50年代、キャサリン・ヘップバーンとの競演で数々の名画を残す。キャサリン・ヘップバーン(Katherine Hepburn)は1907年アメリカ生まれの舞台、映画女優。2010年現在、オスカーの最優秀女優賞を4回受けている唯一の女優。
  6. グレース王妃(Princess Grace):本名グレース・パトリシア・ケリー。1932年アメリカ生まれ。舞台俳優、女優を経て、1956年モナコのモナコ大公レーニエ3世と結婚。
  7. フランク・シナトラ(Frank Sinatra):1915年アメリカ生まれ。20世紀を代表する歌手。

 

 

 

3回目 ホールドしてみましょう

この翻訳に取り掛かり始めようとした所に東北関東大震災、そして福島原子力発電所の事故が起きました。ご家族やお友達をなくされた方々には心よりお悔やみ申し上げます。また、被災された方々は、これからも大変な日々が続くと思いますが、一日も早く穏やかな生活が戻ることを心よりお祈り申し上げます。世界中からの応援、そして励ましのメッセージが届いています。共に頑張りましょう! (翻訳=神元寿美 Translation Hisami Kammoto)

 

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第2章 ホールドしてみましょう

パートナーと踊るためには、一章の中で説明されている正しいポスチャーをしていることは一層重要です。バランスが崩れていると相手のバランスにも影響を与えるからです。ビルはダンス人生を通して最も完璧な軽やかさを求め続けましたが、それはボビーだけが彼に応えることができ、無限の時間を経て到達することができました。ビルは、偉大なヘンリー・ジェイクスが話していた言葉に取り憑かれていたのです  ――  

「私はパートナーを探しているわけではない。スカートをはいた幽霊を探しているのだ」  ――  

数年後、オーストラリアで開催された世界選手権で優勝したビル&ボビーを見たジェイクス氏は、こう語りました。

「ビルがスカートをはいた幽霊を見つけたのは間違いない」と。

メービス・ディーミングと踊るヘンリー・ジェイクス

 

 

🔶足の距離

コンタクトして踊っている時の男女の足の距離は非常に重要で、おおよそ足の半分の長さくらい離れて立ちます。ライズ・アンド・フォールをする時、足の上にある、私たちの垂直のラインが変化することは自然なことです。ライズのときもロアのときも体重は僅かに前の方になりますから、二人の間にスペースが必要になるのです。このスペースは、お互いに脚部を自由にスイングするためにも必要です。ですから、二人の足が適切な距離を持って離れているように注意を払うことがとても重要になってきます。

足の半分くらいの長さを目安に離れます

 

 

🔶ホールド

さて、足の次はホールドです。ホールドで腕を持ち上げたとき問題が起こりがちですが、両腕するときは、男性も女性も、斜め前に出すようにします。そのようにすると、両腕と自分の背中とのコネクションができ、筋肉に余分な負担をかけることなく、安定するからです。

次に、男性は左手で女性の右手を取ります。このとき、互いの手にトーンが感じられるようにしなければなりませんが、同時にグリップに薄さ・軽さが感じられるようにします。そのために、二人の手の中にはハミングバードの卵があり、それを壊さないように運ぶところを想像するとよいでしょう。男性の右手は女性の左肩甲骨の下の部分に置きます。そして、両手は女性のものだと思ってください!

この時、お互いの両手をかなり敏感にしておき、パートナーを感じ取るようにします。女性の背中にある男性の右手で女性の形が決まりますし、リードの役目も果しています。

 

腕がなくても踊れますが、手がなければ決して踊ることはできません!

 

男性も女性もホールドは斜め前に

 

手に力が入り過ぎると肩にも力が入り過ぎるようになってしまいます。しかし、これに関する詳しい事は、後からお話しすることにしましょう。

男性は女性のために、肋骨の下のほうに窪みを作るようにすることが大切です。そうすると、女性はその窪みの中に、バストラインの下から肋骨下部までの間を入れることができ、それにより、正しいフィーリングを得ることができるからです。

 

かつては、女性が男性のホールドに入ってきたもので、その逆はなかった!

 

最後のコンタクト・ポイントとして女性は左手を男性の右上腕部に置きます。それができた時点で、男女のボディはパラレル*になっていなくてはなりません。スイング・ダンスにおいては、左サイドが前にあったり右サイドが前にあったりすることがあってはならず、プロムナード・ポジションの時にだけ、女性は男性の右サイドが前にある感じがします。

 

よく見られる興味深い現象は、プラクティス・ホールドで踊っている時には、色んなステップがうまくできているにも拘らず、普通のホールドになるとうまくいかなくなるケースがあることです。その一般的な原因は次の通りです。カップルがホールドし、男性の左手と女性の右手が組んだ時、無意識のうちに男性の左サイドが開いてしまうからです。そうなった時、パラレル・ポジションに戻るには、男性は自分の中心を、即ち、少しだけおへそを自分の右手方向へ向けるようにすることです。

その時、男性は自分の右手を使ってはいけません。このようにすることで、ボディのコネクションが調整され、女性は自分のポジションの中で、先程より大きなスペースを得ることができるようになります。

 

 

🔶二つの楕円形

こうしたテクニックとその応用をよりよく理解するために、次の1つの基本原則を理解することが重要です。右ページの絵をちょっと見てみましょう。絵の中に二つの楕円形を描いてみました。これが、私たちのバランスを明確に語っているのです。内側の楕円上に二人のおへそがきて、外側の楕円上には二人の左肘がきます。

 

さて、これからお話しする事はあらゆるフィガーを踊る時に使えます。 まず、男性のヘッド・ウェイトは内側の楕円の上にあり、一方、女性のヘッド・ウェイトは外側の楕円上にきます。踊っているときのあらゆるシェイプでこの原理は用いてください。最近良く見かけるのは、男性のヘッド・ウェイトが女性と一緒に、外側の楕円上になっていることですが、そのために女性は必死になって自分の楕円にしがみつくことになってしまいます。しかし、上手くいかないケースがしばしばあります。

男性は内側の楕円を意識して動き、女性は外側の楕円状を動いて行きます

 

覚えておいてください、男女共に、自分の楕円の上にいてください。私達が使用しているテキストに出ているフィガーを上手に踊るには、この方法しかないのですから。特に、更なる上達を目指すには、この原理をしっかり認識すること、そして、いついかなる時も、この原理を使うことが不可避だということを!

頭の位置は、普段の時よりも僅かに上になります。これは背骨をまっすぐ起しているためです。従って、バランスを取るために目の使い方が問題になってきます。男性は自分が進む方向をしっかり見ておきましょう。

 

トウの上に鼻!

 

 

 

🔶ダイアモンド

しかし、私達がよく目にするのは、男性が極端に左を向いている姿で、それにより一般の人達が抱くダンスのイメージを非常に貧しいものにし、かつ、ダンスが不自然なものとして捉えられる結果になっています。そうならないためのダンスのルールは、行き先を見つめなさい、日々の生活でしているように。

観衆やジャッジが見て判断できるのは、ダンサーのホールドしたシルエットなのです。このシルエットが変わらずに見られるようにすることが、成功には不可欠なことなのです。男性の背後からのシェイプを見てごらんなさい。それがダイアモンド・カットの形に見えるようにしましょう。

後ろから見た姿がダイヤモンドの形と似ています

 

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次回は第3章「君の足は大丈夫?」をお届けします。どうぞお楽しみに。(つづく)

【訳者のノート】

  1. ポスチャー(Posture): 第1章には、「ボディの下に両脚部が“長く”ぶらさがる感じ」とありました。この語源はラテン語のpositura「ポジション、位置、態度」。
  2. ヘンリー・ジェイクス(Henry Jacques): ボールルーム・ダンス初期のチャンピオンで、メイビス・ディーミング(Mavis Deeming) をパートナーに1934~1936年のブラックプール・ダンス・フェスティバルで優勝しています。著書に「モダン・ボールルーム・ダンシング」があります。
  3. グリップ(Grip): 相手と握り合った手(通常は男性左手と女性右手)のこと。
  4. ハミングバード(Hummingbird): 空中をホバリングしながら蜜を吸う姿でお馴染みのこの鳥は、鳥類の中で最も小さく、手の平に入ってしまうくらいの大きさです。その卵の大きさは、約8x13ミリ(0.5g)位のようですから、小さなジェリービーンとか黒豆くらいです。
  5. トーン(Tone): この場合は、単に相手の手を押したり引いたりする力関係ではなく、「お互いの手を通して感じられる相手と自分の体の芯」と捕らえると良いと思います。体のトーンという場合は、体の「張り」。
  6. パラレル(Parallel): 英語の意味は平行。平行。相手と両肩が平行になっている形をパラレル・ポジションと言います。
  7. プラクティス・ホールド(Practice Hold): 練習でステップを確認するときなどに使う、少し離れてゆるく組む形。

 

 

 

4回目 君の足はだいじょうぶ?


原書では10頁を割いて足についての細かい説明があり、そのうち6頁は骨格を絡めての説明に費やされています。今回取り上げるのは初めの4頁のみですが、読み進むうちに私たちの足に対する考え方が変わって行くことでしょう。(翻訳=神元寿美 Translation: Hisami Kammoto)

 

* * * * * * * * *

 

  ⬛第3章 君の足はだいじょうぶ?

足を使っていないダンサーはタイヤのない車のようなものです。どういうフットワークをどう使うかという事はそれ程大切なことですから、かなり真剣に取り組まなければなりません。 フットワークとは、体の垂直ライン上のウェイトが足の大きさの上を通過して行くときの足の使い方のことです。フットワークをきちんと使えるようにするには、足の裏を完全にリラックスさせておく必要があります。足裏の筋肉が緊張していると、体重を吸収できず、踊りの機能を果しません。換言すれば、

 

リラックスした足でのみ、良いフットワークが可能である!

 

 

🔶歩き方を学ぶ

ボールルーム・ダンスは踊るような形で歩くことから成り立っていますので、ダンスが上手になるには歩きかたを学ばなくてはなりません。では、どうすれば良い歩き方ができるようになるのでしょう。

まず、スタンディング・レッグ(軸足)に立ち、ボディの下に長くぶらさがっているムービング・レッグ(振り足)を前後に振る練習をしましょう。この練習で、後ろから来る足の着き方が分かります。最初にトウが床に触れ、それがボールになり、次に足裏全体が床に着きます。この状態はスタンディング・レッグを通り過ぎるまで続きます。

 

親指を後ろへ振り上げろ。そうしたら、振り上げた親指を下ろせ!

 

スタンディング・レッグを通り過ぎた足がそのまま前方に行き、最後にヒールのみが床に触れています。まさにこの瞬間にスタンディング・レッグのヒールが床から離れ、そしてムービング・レッグのボールが床に着きます。このルールを次のように覚えておきましょう。

 

ムービング・フットはできる限り長くフラットで床に接し続けている事

 

その間、スタンディング・フットの親指は床に対してずっとプレッシャーをかけ続けています! さらに、その親指をできる限り長く使ってボディを前進させます。そうすることで、音楽を目一杯使い、美しいリズムを表現するためのコントロールの効いた、最大の動きが生み出されます。ウォークは、両足が揃ったところからスタートし、片足が前進・後退して体重移動が行なわれ、もう片方の足が再び揃うところまでを一歩と考えましょう。

 

このウォークをある程度のスピードで行なうと、スタンディング・フットのボールやトウに大きなプレッシャーが掛かりますが、それはバランスを崩さずに止まるために必要なことです。そうした正しいウォークのテクニックが使えるようになると、それは、次のスイングに入る段階に来たことを意味しています。スロー・フォックストロットを上手に踊るには、連続したウォークの中で自然な体重移動が感じられるようになることです。それができるようになると、それがスロー・フォックストロットに欠かせないベルベットのようなソフトな動きを創りだすのです。

 

当然ながら、この練習法は後退にも使えます。ムービング・レッグは最大限に後ろに伸ばして使います。フラットの形からスタートし、ボールが床を擦りながら後ろに動いて行き、最後にトウになります。このボールからトウに変わるとき、フリック・アクション*を使って足首を“クッ”と伸ばして使うと、より安定したウェイトの移動を行うことができます。もう一つ大切な事があります。それば、ムービング・レッグは骨盤の下を通過するということです。骨盤を外れた所で行なうと安定を失い、バランスを崩してしまうからですが、そうなると、何とかしようと筋肉が頑張る結果、効率的な動きができなくなってしまいます。

 

 

フットワークがトウからトウのステップの場合、体重移動を行なう前にムービング・フットの足首を伸ばします。そうするとソフトな体重移動が可能になります。このとき、ムービング・フットの足首の方がスタンディング・フットの足首よりも少し高い位置にあります。こうしたトウから出て行くステップでは足の親指が床をポイントしながら出て行きます。アウトサイドに出るステップでは、膝から下を伸ばしてアウトサイドに出て行き、床をポイントしている足で歩幅が決まります。

 

この歩くテクニックの重要性を決して見くびってはなりません。パワーのある高級車に乗るなら、それに相応しいタイヤが必要です。そのようなタイヤでなければ、車に集結された技術のクオリティーを路面に伝えることができないからです。私たちの足も同じです。きちんとした教育を受け、絶え間なく訓練されていなければ、優秀なダンサーに見る質の高い、スムーズなムーブメントは望むべくもありません。たまたま良いムーブメントができて上手なダンサーになるわけではありません。

どのようなムーブメントをするか、どのようなスピードで踊るか、そうした総てがダンサーに委ねられているのです。そのために、足の使い方を勉強し訓練することが絶対不可欠の条件なのです。

ビルが私に課した宿題は、「どの練習も必ずウォークから始めること。前進、後退、一人で、そして二人で練習すること」でした。

 

足を使わずしてフライトはないのだ!

 

車の話に戻りますが、タイヤはいつでも車体の同じところに付いています。前に2つと後ろに2つ。右側に2つと左側に2つと言っても構いませんが、ハイウェイを走っているときに、後輪の一つが突然外れて前を走って行ってしまう、そんなドタバタ映画や漫画みたいな事があっては致命的です。

しかし、笑ってはいられません。殆どの人達はそのように踊っているのですから。タイヤ(脚部)が先に行ってしまうのです。まるで偵察隊のように、そして、上手くいけばボディが着いて来るだろうと言わんばかりに。自分では充分アウトサイドに出たつもりがパートナーの足に当たり痛い思いをすることがありますが、それは足の勢いがありすぎるためです。こうした時のボディ・ウェイトは常に両足の間になくてはなりません(通常のステップでの体重移動はそうではありませんが)。もし、ムーブメントの距離を伸ばしたいなら、できるだけ長い時間スタンディング・フットを使うことです。

 

スイングを起すには、正しい位置に足がなくてはいけません。なぜなら、ボディ・スイングは足の向いている方向にしか行なわれないからです! 1歩目がトウ・ターン・インしていたりトウ・ターン・アウトしていたりすると、回転は起きるかも知れませんが、スイングのムーブメントを起す事はできません。

 

 

🔶ライズ&フォール時の足の順序

解剖学的にも正しい動きの原理を知識としてもっておく事はとても重要です。ダンスの基本形としては、脚部はボディの下に長くぶら下げておき、両膝を軽く緩めて両足ヒールを床につけます。

この形を便宜上“レベル0”と呼びましょう。ここから両膝が緩んでロアーしたところが “レベル -1” で、スタンディング・フットのヒールは床に触れています! ここから “レベル +1” になるには、両膝を力まずに伸ばして “レベル0” になり、そこから両足ヒールが床から離れて “レベル +1” のライズになります。両膝が緩み、かつ、両足がトウという状態はあり得ないのです! この上なく踊りにくい形ですし、脚部にとっても健全ではありません。

 

 

🔶ヒール・プルの方法

フットワークの極みは、何と言ってもヒール・プルでしょう。では、ビルが残した、この珠玉のステップの攻略法をご紹介しましょう。

 

左足後退をします。その順序は最初にボールが床を触れながらさがり、

次にトウ、それから再びボールになってから左足のヒールが床におります。

そこから右回転を始めながら右足を左足にゆっくり引き寄せますが、

その時の右足は、床に接したままヒールを引き、

そこからインサイド・エッジ・オブ・フットになります。

両足が(約10センチ離れて)平行になったとき、左足を右に約3/8回転させて回転を完了させます。

男性がヒール・プルするとき、女性の回転は始めの2歩間で完了します。

この例外的な外回り回転の仕方は、

男性はヒール・プルで、女性の左足がLODを越えるようにリードしているからで、

そのため、最初の2歩で回転を完了させているからなのです

(しかし、クイックステップのヒール・プルでは、音楽が早いためそうなりません)

(つづく)

* * * * * * * * *

 

 

【訳者のノート】

  1. スタンディング・フット(Standing Foot):体重を支えている方の足。支え足、軸足のこと。脚部を指す場合にはスタンディング・レッグと言います。
  2. トウ・ターン・アウト(Toe Turn-Out):トウを外側に向ける足の使い方。
  3. トウ・ターン・イン(Toe Turn-In):トウを内側に向ける方法で、殆どの内回り回転の1 歩目で使われます。
  4. トウ・リード(Toe Lead):トウから出て行くこと。
  5. ヒール・プル(Heel Pull):ヒール・プルするフィガーには、ワルツのヘジテイション・チェンジやフォックストロットのナチュラル・ターンなどがあります。プル・ステップとも言います。
  6. ヒール・リード(Heel Lead):ヒールから出て行くこと
  7. フライト(Flight):この場合は、ボディが浮いた状態。
  8. フリック・アクション(Flick Action):「(すばやい)一振り、(手首などの)すばやい返し」の意味。
  9. ポイント(Point):この場合は、トウをある方向へ向けること。
  10. 例外的な外回り回転の仕方:通常の外回りは1~2歩間と2~3歩間の2回で回転が完了し、内回りは1~2歩間で回転が完了しますが、ヒール・プルでは外回りする女性も内回りする男性と同じ1~2歩間で回転が完了する「例外的な」動きをします。

 

 

 

5回目 踊りのヒント(1)

早いものでもう5回目になりました。次回が最終回となりますので「掲載できなかった!」と後悔することのないように、皆さんが早く読みたいと思われているに違いない第8章に跳んでおきましょう!

8章の中ではワルツ、スロー・フォックストロット、ヴィニーズ・ワルツ、そしてクイックステップに対するヒントが書かれていますが、今回はワルツを全訳しました。(翻訳=神元寿美 Translation: Hisami Kammoto)

 

* * * * * *

 

第8章 ダンスに関するヒントと秘訣  (ワルツ)

ワルツは回転をしながら横へスイングするダンスです。そこがこの踊りの基本的な特徴です。そのボディ・スイングの軌跡が正しくなければ3歩目で脚を閉じるのは、ギャンブルのようなものです。自然な足の形、ゆったりとした動きで脚が閉じられていれば、そのダンサーは本当に正しいアクション、正しいバランスで踊っている証拠です。

 

🔶プレッシャー・ライズとスイング・ライズ

他のボールルーム・ダンス同様、テキストからライズやロアーのタイミングを学ぶ事はできますが、残念ながら、その方法については書かれていません。この点についてビルは次のように教えていました。

ビル&ボビーのPP

生徒に両足を揃えて立たせ、まず片足の指で床をプレスさせます。次に、両足の指でプレスさせます。プレスすることで足の靭帯が活性化するからです。そして足の靭帯が活性化すると連鎖的に足首、そして脚の下部の筋肉も活性化するのです。この下方へのプレスがボディを持ち上げることをプレッシャー・ライズといいます。

 

ライズの二つ目のタイプとしてスイング・ライズがあり、これは音楽の1拍目の終わりで床を圧縮している脚からボディを開放することで得られます。この時の床を圧縮することを「インプット」、続く解放を「アウトプット」という事もあります。スイング・ライズに対するプレッシャー・ライズは、床に対する下方へのプレスからのライズをいいますが、スイング・ライズの2拍目から3拍目にかけても、この床へのプレスが使われています。

 

ライズだけではなくロアーの体の使い方、ボディ・ウェイトのコントロールも非常に重要です。ロアーのアクションはトウから始まり、次に足首、そして膝で圧縮して行きます。コントロールの利いたロアーをすることは必須で、ダンサーのバランス、タイミング、そして筋肉のコントロールなど、全体的なことに影響を及ぼします。

 

ロアーから計算してステップ、そしてスイングせよ!

 

同様に重要なのがダウンスイングの捉え方です。ビルは、ムーブメントの特性はこのダウンスイングから生み出され、正しい方法、正しいタイミングでダウンスイングが行なわれれば、その当然の結果としてアップスイングは起こる、という考えを持っていました。

3歩目で足を閉じるフィガーであってもオープン・フィニッシュのフィガーであっても、1小節で3歩ステップするフィガーを踊る上で、このようなワルツの特性に細心の注意を払えるようになることが絶対に必要なことなのです。

 

 

🔶ペンジュラム・スイング

さて、誰でもワルツにペンジュラム・スイングがある事は知っていますが、このペンジュラム(振り子)は、ある高い地点から次の高い地点へスイングすることです。ペンジュラム・スイングはゆっくりとしたダウンスイングから始まり、だんだん加速し、一番低い地点で最も速くなります。そこから減速が始まり、アップスイングになります。

では、ダンスにおけるペンジュラムは、一体どの位の重さであるべきなのでしょう。

骨盤付近の重さだと言われることもありますし、いや、重心の重さだ、なんだかんだと言われたりもしますが、実際の所はカップルとしての全体重 ― 二人で天井からぶら下がっている場面を想像してみて下さい ― これがペンジュラムの重さと考えられます。よって、私たちが踊る時、決して自分達の垂直なラインから外れて踊ってはいけないことがはっきり分かって頂ける事でしょう。

 

このルールに例外はないのだ!

 

スイングで必要なことは、最初のステップを錨のようにして床を捉えることです。そうすると反対のサイドが自由になって1歩目を通り越してスイングしていきます。西部劇で見かける酒場のドアを思い浮かべると良いでしょう。ドアの片側はしっかり壁に取り付けられていますが、もう片側は自由にスイングします。ダンスでも同じ事が言えます。具体例を示すと、ナチュラル・ターン前半では男性は右足を床に固定し、左サイドが自由にスイングできるようにするのです。

音楽の観点からお話しすると、各小節の1拍目を前もって考えておくことが不可欠です。それをしておけば、1拍目でタイミングを外すことなくステップすることが可能になるでしょう。

 

 

🔶シャッセ・フロム・プロムナード・ポジション

最近では、男女共に足をきちんと閉じているカップルを見る事が稀有になってしまいました。なぜなのでしょう? アレックス・ムーアの本にはっきりと書かれているではありませんか ― (男性は)両足を壁斜めに向け、LODに沿って踊る ― と!

これは絶対必要なことなのです。なぜなら、女性は男性を通り過ぎて行く必要があるからです。それを間違って、男性が壁斜めに進んでしまうと、男性は女性の通り道を遮ることになり、女性は間違いなくつまずいてしまう事でしょう。足を閉じるには、横にステップするアクションが必ず必要です。そして、足を閉じたなら、次のステップは少し前に出して進行方向を変えます(壁斜めに)。この足は距離を稼ぐためのものではありません。単に、次に起こるロアーをコントロールするために、体重を乗せるだけで良いのです。

 

 

🔶フォックストロットからの応用

ワルツには、スロー・フォックストロットのフィガーから応用されているフィガーが入っていることも知っておきましょう。良い例として二つあります。ひとつはオープン・ナチュラル・ターンで、もう一つはランニング・ナチュラル・ウィーブです。両方とも、もともとの踊り方ではクローズド・ポジションからスタートしていました。

スロー・フォックストロットで踊る場合、初めの部分で女性は男性を通すためにヒール・ターンをします。こうしたヒール・ターンはスロー・フォックストロットの特色のひとつとなっている訳ですが、それがワルツで使われるとなると、ワルツの特色であるスイングを作り出さなくてはなりません。これはプロムナード・ポジションから始める場合は簡単です。なぜならヒール・ターンをしないからです。

 

しかし、最近の振り付けは、こうした簡単な基本のルールを無視しがちで、プロムナード・ポジションではなくクローズド・ポジションで始めたにも拘らず、ヒール・ターンをせず、ワルツのスイング・アクションだけに専念しているのです。その結果、力ずくの回転となり、常に雑な足運びになってしまっています ― 最低、女性側はそうなります。

他のダンスからのフィガーを転用する場合には、元のフィガーの特徴を最大限に尊重しつつ、踊ろうとするダンスの特徴に変換していかなければなりません。

 

 

🔶アウトサイド・スピンの秘訣

もう一つのワルツの秘訣は、テキストにあるアウトサイド・スピンの足の使い方についてです。

これを充分理解するには、まず、ひとつのアクションが終わった後の両足のポジションがテキストに書かれていることを知っておかなくてはなりません。つまり、両足は必ずしもそこに置かなくてはならないという意味ではないという事です。

オープン・ナチュラル・ターンの3歩目からアウトサイド・スピンに入る場合、男性はオープン・ナチュラル・ターンの3歩目右足の上でコントロールしながらヒールを床におろし、次にアウトサイド・スピン1歩目をステップして左ヒールを下ろします。そのとき、右足の上に体重を下ろして行きながら回転し、その回転の間に、徐々に左足に体重を移します。そうした動きの中で、この一種のスイッチ・ムーブメントは行なわれます。

1歩目左足の回転が終わる時点で左足は右足より少し後ろにあり、次の右足は、回転を継続しながら、小さく前方にステップします。この回転が継続していることを忘れないで下さい。この右足のフットワークはHT(ヒール、トウ)で、僅かなライズが含まれています。また、この足はスピン・ターンの1歩目と同じ動きですから、次の左足の置く場所は、ボディの下、僅かに横方向になります。

 

女性の踊り方を見てみましょう。オープン・ナチュラル・ターン3歩目で男性のロアーに合わせて、左足の上にロアーします。当然次の右足は(その前にロアーしているので)、ヒールから出て、フットワークはHT(ヒール、トウ)です。そして、右回転が継続する中でアウトサイド・スピンの2歩目左足をステップし、そこに右足が閉じてきます。左足はトウで回転していますから、次の右足は当然トウ・リードになります! トウで出てからヒールがフロアに下りていきます。

こうした作業は複雑に聞こえるかもしれませんが、そんなことはありません。是非やってみてください。その時は1歩1歩確認しながらやってください。

 

 

🔶フォーラウェイ・リバース&スリップ・ピボットの秘訣

フォーラウェイ・リバース&スリップ・ピボットはとても人気がありますので、これについても秘訣を書いておきましょう。

フォーラウェイ・リバース&スリップ・ピボットはフットワークも良く間違われます。これを踊る際にとても重要な事は、男性は自分のウェイトをしっかりトウの方に持って行くことです。

男性が2歩目に入る所をこんな風に想像してみてください ― 男性の右足トウの下にコインがあります。そのコインを3歩目から4歩目のスリップ・ピボットまで引きずっていくのです。そうすれば、2歩目右足のヒールを下ろすばかりか、トウまで上げてしまう、こうした広く行なわれている間違いを避けることができるでしょう!

三笠宮殿下との晩餐会で

 

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オリバーはアマチュア時代に10ダンスで世界チャンピオンになっています。ラテンをやめようと思っていた時、「役に立つから続けなさい」とボビーに言われて良かったと回想しています。

次回はスロー・フォックストロットのヒントから始め、紙面が許す限りクイックステップのヒントを入れてみましょう。お楽しみに!

【訳者のノート】

  1. ランニング・ナチュラル・ウィーブ(Running Natural Weave):ランニング・ウィーブのこと。
  2. 靭帯(Ligament):強靱な結合組織の短い束で、骨と骨とを繋いで関節を強固にし、その可動域を制限する働きもある。
  3. スピン・ターンの1歩目:ナチュラル・スピン・ターンの5歩目の事。

 

 

 

6回目 踊りのヒント(2)

前号でお約束したように、第8章の踊りのヒントの続きを見ていきましょう。ただ、スロー・フォックストロットだけで、クイックステップまでは行けませんでした。(翻訳=神元寿美 Translation: Hisami Kammoto)

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第8章 ダンスに関するヒントと秘訣 (スロー・フォックストロット)

 

🔶タイミングについて

ここでは最初にスロー・フォックストロットの基本的なタイミングについてお話ししましょう。ベーシックのリズムは “QQS” なのです! 試しにクロース・ホールドで “SQQ” と歩いてみると、非常に難しいと感じますが、今度は “QQS” で 歩いてみると、この方がずっと楽に動けるのが分かります。それはスロー・カウントの所に入っていくときにボディ・スピードが落ちていくからです。理論的な話をすると、スロー・カウントの終わりから次のクイックにかけてスピードを増して行かなければなりませんから、スローの前でスピードを上げておいてクイックにかけて落とすのは、理に叶わないことになります。

第1Qは加速のステップで、スローの後の第1Qとして自然に行なわれる事です。実際にカップルが第1クイックを小節の1拍目にあわせて踊っているのを1960年代の映像の中で見る事ができます。ところが、今日のスロー・フォックストロットでは最初の2拍を “S” で踊るため、60年代のチャンピオンの踊り方を見て「音楽的に合っていない」と批評する人が沢山いますが、それは、勿論、正しくはありません。今の若い人達は、1小節の前半(最初の2拍)がスロートとしか知らないからなのですが、アクセントが置かれるのは第1Qのステップだと分かると、以前の人たちの踊り方が容易に理解できることでしょう。

 

テキストに書かれたフェザー・ステップの説明を見みると、そこには歩数が4歩あります! しかも、4歩目のフットワークが “HT” ではなくて “H” になっていますが、それはどういう意味なのか、そのことについてお話しましょう。

まず、フェザー・ステップの男性の1歩目は右足前進から始まります。この足の上に体重が乗り切った時点で、膝は伸びています。次に、早めのライズを起こし、回転が加わる中で加速が始まり、そのスピードが最も速くなるのは第1Qです。そこから、第2Qを通ってスイングが終わるところまでボディ・スピードは徐々に落ちて行きながら、次のスロー・カウント前半に入って行きます。

先ほど、「4歩目のフットワークが  “H” になっている」と書きましたが、その理由がここにあります。つまり、ダンサーが次にリバース・ターンに入る時は、このフットワークは“H”から“HT”になり、足裏を転がしながら次の加速が始まります。

殆どの人が最初に習うワルツでは、ロアリングと加速は同時に起こります。ところが、この特徴がスロー・フォックストロットの中でおかしな形で使われ、スイングのイメージが歪められ、スロー・フォックストロットの特徴であるロールス・ロイスのような動きが失われてしまいます。ワルツのとき同様に、ボディの片側を錨のように止めてスイングを行なう ― これが絶対に必要なことなのです。この原理はすべてのスイング・ダンスのスイング・アクションに適用されます。

この原理を守って踊ると、フェザー・ステップ ~ リバース・ターン ~ スリー・ステップは楽に踊れることでしょう。右サイドを固定して左サイドをスイングし、左サイドを固定して右サイドをスイングする。再び右サイドを固定して左サイドをスイングしたなら、最後に左サイドを固定して右サイドをスイング。これが秘訣なのです。

 

ステップしたらスイングして、そのまま流れていけ!

 

 

「??」と思っている人に補足説明をしますと、「フェザー・ステップが4歩」というのはISTDのテキスト(かつてのリバイズド・テクニック、現在のザ・ボールルーム・テクニック)を指しています。そこでは、男性のフェザー・ステップは、①右足(HT) ②左足(T) ③右足(TH) ④左足(H)となっており、この4歩目は後続フィガーの1歩目と重なって書かれているため、フットワークは次にくるフィガーで変わります。次がリバース・ターンだと本文にあるように(HT)になり、次がスリー・ステップだと(H)になります。

 

🔶コモン・フォールト

フェザー・フィニッシュ2歩目の置き方に関するコモン・フォールトを見てみましょう。

  1. 男性はリバース・ターン4歩目の右足を後退(この時、上半身を左回転させません)したなら、次に左脚はボディの下をスイングし、右脚を通り越して壁斜めにポイントします。ここでコモン・フォールトが起こります。つまり、この左足は単にポイントするだけなのです! 完全に置いて体重を乗せてしまうと、女性はスイングしながら男性を通り越せなくなります。男性が壁斜めに踊って行ってしまうと、女性をブロックしてしまうからです。注意しましょう。
  2. コモン・フォールトの中でも最も許し難いのは、女性がウィーブ・エンディングで犯すフットワークの間違いです。実に多くのカップルが、距離を伸ばそうとする余りウィーブの3歩目でロアーしますが、そのために、女性は4歩目左足をヒール・リードしてしまうことです。ウィーブ・エンディングとフェザー・フィニッシュは似ていますが、両者の間には重要な違いがあります。フェザー・フィニッシュは “SQQ” と踊るのに対し、ウィーブ・エンディングは “QQQ” ですから、ウィーブ・エンディングでのロアーはありません。従って、女性の4歩目のフットワークは “T” でなければなりません。ところで、フェザー・ステップとフェザー・フィニッシュの違いは理解していますか? 非常に分かりにくいと思いますので、ここで説明しておきましょう。フェザー・ステップには右回転が含まれていますが、フェザー・フィニッシュは左回転です。アウトサイド・パートナーで終わる点は共通しています。もう一つお話しておきましょう。プロムナード・ポジションからのフェザー・ステップはありません。それはフェザー・フィニッシュですよ。
  3. ビル&ボビーが好きだったバリエーションの一つにエクステンディド・リバース・ウェイブがありました。これはリバース・ウェイブ(の6歩)にバック・フェザーとバック・スリー・ステップが加わったものですが、これが色々な問題を引き起こします。問題が起きてそれを解決しようとするとき、ダンサーは回転方向をしっかり理解しておくことが大切です。そして、そこが小節の変わり目だという事も。また、バック・フェザーでは右回転しますが、バック・スリー・ステップは左回転です。第5章で学習できていると思いますが、回転というのは常に同じタイミングで起こるわけではなく、バック・フェザーの右回転はその前のステップで始まりますし、バック・スリー・ステップの左回転はその1歩目の終わりに始まります。前者は積極的に、後者は消極的に行ないます。

 

エクステンディド・リバース・ウェイブでは男性がよくフットワークの間違いを犯しますので、間違わなくなる、大切なアドバイスをしましょう。男性は第1Qのステップではトウに踏みとどまります!

 

女性が踊る前述のフェザー・ステップとスリー・ステップでは、男性前進の場合のフットワークと変わらないのに、なぜ男性後退時のフットワークは変わるのでしょう? それは簡単なことです。女性には高いヒールがあるからです。高いヒールは体重を常に前方へと運んでくれますが、男性が女性と同じフットワークにしてヒールを使ってしまうと、ポイズが後方へ動いて行ってしまい、女性の前進を難しくしてしまうからなのです。

 

 

補足説明をしましょう。

エクステンディド・リバース・ウェイブは、(1)リバース・ターンの3歩(SQQ)、(2)バック・スリー・ステップの3歩(SQQ)(ここまではリバース・ウェイブの1~6歩目です)と、(3)バック・フェザーの3歩(SQQ)、(4)バック・スリー・ステップ3歩(SQQ)から構成されています。

男性は(2)と(4)で女性のスリー・ステップを、(3)では女性のフェザー・ステップを踊りますが、オリバーは男性に向かって、「第1Qのフットワークは女性と同じTHではなくて、Tですよ、とアドバイスしてくれています。

女性は(2)と(4)で男性のスリー・ステップを、また(3)では男性のフェザー・ステップを踊るわけですが、男性が踊る時と同じフットワークで踊ります。

 

TV番組「ダンシング・ウィズ・ザ・スターズ」の人気ジャッジ、レン・グッドマン氏と

 

* * * * * *

 


半年に亘りお届けしてきたアービン・レガシー、お楽しみいただけたでしょうか? 私もこのような機会を頂き、楽しくお仕事させていただいたことを感謝いたします。翻訳作業をしていると、その昔武道館で、アービンご夫妻がオナーダンスかデモでクイックステップを踊りながら、生バンドに向かって「もっと速く!」とジェスチャーしていた姿が思い出されたり、一昨年のブラックプールのチームマッチで、オリバー氏がドイツのチームリーダーとしてフロアに立たれていた姿が昨日のことのように幾度となく目に浮かんできました。ご冥福をお祈りいたしております。(おわり)

【訳者のノート】

  1. クロース・ホールド(Close Hold):ここでは通常のダンス・ホールドと理解してよいでしょう。
  2. フェザー・フィニッシュ:リバース・ターン後半のステップを取り出してこう呼びます。
  3. コモン・フォールト(Common Fault):広く行なわれている誤り。
  4. ウィーブ・エンディング(Weave Ending):ウィーブ後半のステップを取り出してこう呼びます。
  5. バック・スリー・ステップ(Back Three Step):男性後退で行なうスリー・ステップのこと。このとき女性は男性のスリー・ステップを踊ります。
  6. レン・グッドマン(Leonard Goodman):1944年英国生まれ。TVパーソナリティ、ダンス教師、および、ダンサー。カールアラン賞受賞者。

 

🔶 🔶 🔶

  💿DVDもあります

書籍とは別にDVD(The Irvine Legacy DVD)があるのをご存知ですか? このDVDでオリバーは書籍の内容に沿った順に軽快な説明を進めて行きます。DVDは動きが見えるのが最大の特徴ですが、本人の声が聞けるのも大きな魅力です。日本語の吹き替えが入っているので英語が苦手な人でも全く問題ありません。時どき英語に切り替えオリバーの声や話し方から、彼の人柄を想像するのも楽しいことです。

 

書籍で数行の所が、DVDでは、一層詳しく説明されていたり、書籍にはないちょっとしたエピソードが出ているのも魅力です。その一方で、書籍にある人体骨を使った説明はDVDには含まれていません。やはりそこは、じっくり本で写真を見ながら読むのが良いでしょう。

この The Irvine Legacy DVD は実は2枚組! 2枚目にはビル&ボビーのデモや競技会の映像やビルの最後のレクチャーと言われるブラックプールでの映像が収められています。この貴重なレクチャー映像は英語だけですが直接レクチャーに参加している気持ちでご覧になるだでけでも価値あると思います。

本に無い魅力がDVDに、そして、DVDには無い魅力が本にあります。

 

ハッピー・ダンシング!

 

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