#300 タンゴの歴史(昭和の本が紹介するタンゴ)

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#300 タンゴの歴史
(昭和の本が紹介するタンゴ)

すでにこのブログで何度か取り上げている「社交ダンスの踊り方」(玉置真吉著/大泉書店/弐百円)。昭和33年(1958年)発行のダンスの本が紹介するタンゴが興味深いのでく、記録として残しておこうと思います。(ほぼ原文のまま。漢数字は英数字に変えています)

 

タンゴ TANGO

タンゴは二つの系統からヨーロッパに伝わりました。一つは「ハバネラ」habanera という型式でキューバから欧州に伝わりました。これは1492年コロンブスがサン・サルパドールを初めキューバなどを発見してから、スペイン人が多くこの島に移住しました。この島の原住民は欧州人がインディアンと名づけた蒙古人であったのですが、その後煙草や砂糖その他の農作物を作るために、労力源としてアフリカから黒人を入れたので、黒人とスペイン人との混血児が多く生れ、これらの二つの伝統が混淆してでき上ったものがハバネラ habanera で、これはこの国の首都ハバーナ Habana から来ています。リズムは第一拍の頭に最強長い音が来る特色があります。1840年,スペインの作曲家イラディェル Sebastian Yraddier はキューバに旅行して、ホテルの窓に流れこんで来る妙なる音楽に感激し、これを採譜したものが有名なラ・パローマ La Paloma で、ハバネラ,リズムの始めとなっています。その後ビゼー Alexandre Sesar Leopold Bizet が有名な歌劇カルメン Carmen を作るとき、そのヒーロイン、カルメンに「ハバネラ」を歌って踊るようにしたのでますます世人の注意をひくようになりました。そしてフランス有数の大作曲家デュビュッシ Claude Achille Debussy はこのリズムによる沢山の名曲を残しています。近代ではロシヤのストラヴインスキー Igor Feodorowitsch Strawinsky も沢山のこの種の曲を作っています。これらはみな、ハバネラ調であります。

一方同じスペイン人の多く居住する南米の南端の国アルゼンチンでもやはりアフリカの黒人を入れてこの不毛の地を開拓しました。今日パンパで牛の管理を業とするガウチョはこの黒人とスペイン人の混血児が多いということであります。

ガウチョなどは夜になるとギターをかき鳴らし、村の娘の窓下に立って自分の意中を訴える歌を歌うのが常でありまして、これがミロンガ Milonga であります。その後,この曲はカフェーにはいり、ダンスの伴奏をするようになり,多くの新作が現われてますます流行になり,これがタンゴとして人々に親しまれるようになりました。タンゴ音楽の特長は2/4のリズムを八分音符四個の平均に打ち、四つ音をみなアクセントをつけ、然もマルカートに奏するのです。尤もタンゴの楽譜にはいちいちそんな印がついているわけではありませんが、本場アルゼンチンのオーケスト一ラはバンドネオンを主として奏します。この楽器は手風琴から進化したもので、リードが鋼鉄であるために音が男性的で強く、奏者は一音二音力をこめてこの風袋を押すので非常に強い表情が生れます。

このバンドネオン四つまたは五つ、ヴァイオリンほぼ同数、それにピアノを加えたものが「オルケスタ・ティピカ」 Orquesta Tipica (典型的楽団)とせられ、これがアルゼンチン・オーケストラの形であります。わが国のタンゴ楽団も多くはこれによっています。

一方欧州大陸や英国ではバンドネオンのよい奏者がいないので、ヴァイオリンを主奏楽器とし、これに木管と金管を配するから、アルゼンチンのように一音一音マルカートに奏するわけに行かないのであります。英国ではこの形のタンゴの最も壮大な演奏をするのが、マントヴァーニ、これについで、ジョーロスがあります。大陸では「蒼空」でおなじみのフォン・ゲッツイなどがあります。英国も欧州大陸も優秀なバンドネオン奏者がいないから、ほんとうの意味の「タンゴ・アルヘンティーノ」は聴くことができません。

ちょうど日本の小唄は三味線という特殊な楽器によって伴奏して歌うようになっているものを、ピアノの伴奏で歌っても情味がうつらないのと同様であります。これに反してヴァイオリンの小曲としていちばん人の知っている「ユーモレスク」を三味線でひいて見ても、音の高低はなんとかなるが、とてもヴァイオリンで、しかもクライスラーとかハイフェッツのような味がでるわけではありません。

タンゴのほんとうの気分は何といってもアルゼンチンの良い楽団の演奏に限ります。

(中略)

音楽は2拍子で、1拍を2つに数え、1&2&とした方が分かり易いのです。ステップのリズムは1&2、QQS、または、12&、SQQ、となることもあります。

 

このダンスは他のダンスと大分性格が違っています。いまその諸点を左に列挙してみますと、

1.足を床から離して先方へステップすること。これはガウチョが草原で踊ったために足を滑らすことができなったからだといい伝えています。

2.膝は他のダンスよりよけいに曲がること。これも足を床から離す結果起こってくる相違であります。

3.足はいつも平らに床に踏むこと。他のダンスのように、Sの足を踵からつま先にライズすることがなく、いつも平らに、ときには踵で初め床に踏んでも、踵を床から上げてライズせず、せいぜい平足でおわること。

4.ライズのないこと、膝が曲がり、平足でステップする関係上当然ライズは起こりません。身体の高さは初めから終わりまで変わらないということであります。

5.閉じる足がSとカウントせられること。他のダンスではQQとカウントしたのにたんごではQSとカウントします。

なお、いまわが国で踊っているタンゴは、英国の競技型であるために、いろいろな点において、世界一般の社交用タンゴと違う所がありますが、本書は社交用のダンスを目的とするために、そのように記してまいります。

ホールド(組方)もいま一般にパートナーをみぎにずらして組んでいますが、これは形と気分を強めるためにそうしているのであって、素人同士の交際に踊るには適しませんから、他のウォールスなどと同じように真正面に組む方がよろしいのです。

 

 

 

本書で紹介されているフィガーは次の通りです。

  1. ウォーク
  2. プログレッシブ・サイド・ステップ
  3. オープン・リバース・ターン、レディ・イン・ライン、クローズド・フィニッシュ
  4. クローズド・プロムナード
  5. バック・コルテ
  6. ナチュラル・プロムナード・ターン

それにしても、こうした古い本を開く度(数冊しか持っていませんが)、著者の溢れるばかりの情熱が感じられます。同時に、幅広い知識に驚くばかりです。

 

ハッピー・ダンシング! 

 

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